家にいる時間が長くなったこの数ヶ月、子どものころに読んだ本を読み返してみようと思いついた。
ローラ・インガルス・ワイルダーの大草原の家シリーズは、日本では長く読み継がれ、テレビシリーズも人気がある。
図書館で親の手を借りずに、はじめて自分で選んだのは『大きな森の小さな家』で、これがわたしのアメリカ文学の第1冊目になる。そのころは、ソーセージやチーズを原材料から作る場面に心をときめかせどんな味がするのだろうと想像し、父ちゃんが森から切り倒した木材でほとんどひとりで家を建ててしまう格好よさに惹かれていた。
ローラ・インガルス・ワイルダー著、恩地三保子訳、ガース・ウィリアムズ画『大草原の小さな家』(福音館書店、1972年)
長いシリーズなので、『シルバーレイクの岸辺で』の冒頭をKindleの英語版で読み終わっただけであるが、ローラが成長して聞き分けの「いい子」になりつつある。『長くつ下のピッピ』はずっと自由人だけれど、ローラもアンもシリーズが進むと、型破りなおてんばさは消えて、普通の女の子に変身し(しかもかなりの優等生に!)、常識的な大人になって結婚していく。子どもの時は、わたしの好きだったローラやアンはいなくなって置いてきぼりにされたような寂しさを感じていたが、彼女たちがジェンダー規範に縛られ、社会に受け入れられる望ましい「女性」になる成長物語だったことが、再読してわかった。
また、母ちゃんの気持ちになってみると、父ちゃんの身勝手さに腹が立ち、なぜあの何度もの移動に黙ってついていくのかと疑問がわく。父ちゃんは、ネイティヴ・アメリカンに対して友好的な姿勢であるが、母ちゃんはとにかく「インディアン嫌い」の典型的白人開拓者の価値観の持ち主である。この夫婦の関係性を考えるようになったのは、もうわたしは小さい「ローラ」ではないからだ。
「大草原の小さな家シリーズ」を今の自分が読むと、人種、ジェンダーのことが気になり、アメリカの膨張主義とローラの人生の重なりを考える。そして冷戦期に日本でこのシリーズが積極的に利用されたこと、インガルスが児童文学賞から名前を消されたことなど、この本について調べるとおもしろいことがたくさんある。
本の読み方、作品との距離の取り方は年齢とともに変化する。もうローラじゃないわたしは別の視点で、またもう一度ローラと出会っているのだ。
(慶友会メンバー:S)
⇒ローラの移動について
MPR NEWS. Where the Wilder things are: The Laura Ingalls Wilder road trip. BY Tracy Mumford
⇒「ローラ・インガルス・ワイルダー賞」文学賞名称変更について
BBC NEWS JAPAN 「大草原の小さな家」作者の名前、米文学賞から外され 人種差別で (2018.06.26)
Laura Ingalls Wilder
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